主なる妓樓

所謂大まがきといふは角海老、稲本、大文字、不二樓の四軒で、これが先づ吉原の代表的貸座敷。

しかし何れもまだ本建築でなく、何となく一種の寂し味を感せしめる、例へば以前堂々たる洋館で異彩を放つてゐた大文字樓が、写真で御覧の通りのつゝましやかな平家建、だが格子の 前に積桶などしたあたりは却つてむかしの吉原風景をしのばしめるものがある。

元来が貸座敷に西洋建築などは余計なことなのである。

「中店といふ名称は今は無くなつたが、此の四軒に次ぐ樓は河内樓、宝来樓、彦多樓、成八幡、君津樓、辰稲弁、三河樓などいふところであらう。

引手茶屋では例の山口巴、青柳をはじめ大忠、竹治、若水、丸小尾張、細見蔦屋など名の聞こえた家で、且ついづれも二三百年引つゞいてゐる旧家である。