花街情調

水郷である此花街に「網船」は一種独得の情調で、毎年四五月の頃から九月中旬迄行はれ京阪地方からの漁客が多い。 宇治の清流に棹し、指月の森の前に船を停めて、緑樹影映り魚木にノボル謡曲の一句を眼前に投網するの清遊は、竹生島では見られない図である。 白沙の浅瀬あり。 紺碧の深淵あり、投網の渦紋流れにつれて消えゆく様、心ゆく迄の静寂の境である。 網船は各料亭から出るが、網船專業者もあつて、夏期は日毎に少くも数艘、多い日には数十艘の出船がある、それから七月二十二三の両日に亘る「弁財天祭」は丁度大阪の天神祭に似た水上祭で、御輿船や囃子船と共に遊船をつらねて宇治川の本流に出て、廓内は何れも満艦飾、紅燈水に映じて一大龍宮城を現出せしめる。