特有歌の踊

特有の唄といへば祇園と同じく「京の四季」より外にない。 祇園の都踊りに対して此地では「鴨川をどり」を催す。 その起原は都をどりと同じく明治五年からで、一時中絶して居つたこともあるが、明泊廿八年に復興して以後は建物改築の為め二回休んだ外は毎年続けて催し、都踊りと共に京名物のひとつに数へられてゐる。 殊に大正十五年約百万円を投じて鉄骨鉄筋のすばらしい歌舞練場を新築し、今日は加茂河畔に威容堂々として聳え、建築の壮麗さでは遙かに祇園を圧倒してゐる。 開期は従来五月一日から二十日であつたが、改築後は時期を繰上げて都をどりの終らない中、即ち昭和三年は四月廿一日から一ヶ月間、昭和四年は四月十日から一ヶ月間開催し、同時に踊の内容にも大いに新味を加へて来た。 昨年の新作は山岸荷葉氏の「光の春」(八段返し)といふので、就中吉枝、卯の子市蔵、市彌などが女神に扮して思ふ存分に踊つた「平和の国」などはなかなか好評であつた。