東の料理と料理屋

料理屋へ芸妓の入らぬことは大阪と同様であるが、京都で有名な料亭といへば先づ第一に南禅寺の「瓢亭」、料理は茶懐石で、玉子の半熟を二つ切にして出すことなどは、蓋し誰でも御存知のこと、時候ものゝ走りを食べさせるのが自慢の家で、最ともブル趣味である。 次は円山公園の「左阿彌」東京なら芝の紅葉館と云つた趣きの家で、春の花、初夏の新緑、多はうれしや雪見酒によい。 大衆的な料亭では花見小路に平野家、芋と棒鱈の煮合せが十八番で、一名を「芋棒」といふ、外に梅椀、餡かけ豆腐、お多福豆、春の豆めし、秋の栗めし等も此の家の名物とされてゐる。 梅干の甘煮で知られた「京饌寮」甘藷の栂の尾煮の「栂の尾」は共に祗園の鳥居前にある。

その外うまい物屋といへば、大仏前の「わらじ屋」、高台寺の「田舎」、西洞院の「丹栄」、東山安居神社わきの「樹の枝」。 川魚料理では縄手の「みの吉」、スッポンは上七軒の「まるや」、豆腐料理なら祗園の「中村楼」、麦とろの「平八茶屋」など。 名物は鱧や甘鯛の料理、鯖のすし。 川魚では鰉、アメゴ、鷺しらず。 蔬菜類で筍、松茸、京菜(水菜、壬生菜)、聖護院大根、聖護院蕪。 精進料理の発達してゐることも流石に京都で、京都料理の特色はこの精進料理から発達した点にあると言つてよい。