家形と扱席及び姉と妹との関係

大阪の芸妓には家号がなく凡て扱席の名を冠して名乗る、例へば京屋席の千代太郎、富田屋席の玉勇の如し。 千代太郎は幸四郎贔負で知られた新町の大茶屋大屋の娘であるが、大屋の千代太郎でなく京屋の芸妓として出てゐる。 即ち京屋が店で、家形が大屋といふ貨席なのである。 次に姉芸妓と妹芸妓との関係だが、是も一例を挙ぐれば玉勇に沢山の妹芸妓がある、五人あるとして皆「店の姉」としては玉勇だが、皆富田屋に居らなくても各自に家形を有つて居ていゝのである。 又玉勇自身もその妹を抱えて、他の友達芸妓の妹として出すことも一向差支ない、即ち富田屋玉勇が金を出して抱えてる女を、大和屋の小政の妹として稼がせても、それは自由なのである。 お解りかしら?詰り「姉」とは元来家形の主婦が芸妓である場合その妹芸妓(或は抱妓)に対しての称呼で是は全国殆んど一般的であるが、芸妓に出るには家形の姉の外に更に勢力のある芸妓に頼んで其の妹分として出てもよい、それを「店の妹」といふ、此辺の関係が少しやゝこしい。