區別

此の表で見ると、杉並・葛飾の外「向島」と「瀧野川」の両区にも花街はないやうに見えるが向島区内には本所区の向島・秋葉の両花街が伸びて行つてる上に、有名な「王の井」が存在し、瀧野川区内にも王子花街が音無川を渡つて一部延伸して行つてるから、此二区は全然花街の埒外にありとは言へない。

右の内新吉原、洲崎、新宿、品川の四箇所が娼妓本位の謂ゆる本格的「遊郭」である外は、凡て芸妓専門の花街であると云つてよい。板橋に二三軒、千住に六七軒、むかしの名残の妓楼があるが、今日は特に遊廓として取扱ふほどのものではない。この点、芸娼妓併置制を採つてゐる京都や大阪の花街とは、大いにその趣を異にしてゐる。

尚ほ浅草、渋谷の両花街は芸妓が各両券番にわかれ、その出先である料理店、待合にいたるまで確然二流に別れてゐるから、地域は略同一でも、むしろ異つた四花街と観る方が適当でないかとも思ふ。更に向島券から第一券が分離し最近墨田券が又二つに分離し、小山花街も実は三券番に分れてゐるのだから、大東京五十四花街、数へ方に依つては「六十花街」ともなる。また日本橋区浜町とその対岸の中洲とは、柳橋、芳町両花街の入会地であつて、自由に両方から芸妓を招べるが、柳橋、芳町はそれゞ独自の根拠地をもつて居ることだから、此地はたとへ芸妓屋は一軒もなくても、さうした特殊な形式を有つた独立の一花街と見てよいであらう。また下谷区「池の端」の花街は元下谷数寄屋町と本郷同朋町と芸妓組合が全然二つに分れてゐたが、これは近年一つの組合に合併されてしまつた。

規模の大小亦固より一様でない。芸妓の頭数からいへば常に一千名内外を擁する「浅草公園」を以て第一とし、「新橋」「芳町」共に約七百名で之につゞき、次が神楽坂の六百名といふ順序。新市街の方では渋谷の三百五六十名が筆頭であらう。少い方では世田谷区の玉川」、大森区の「森ケ崎」、千住区の「千住」などで、いつも二十名内外の所を出入してゐるし、江戸川区の「小岩」はまだ芸妓、待合が許可されず遊芸師匠でやつてゐる。