東京花街総記

大雲京五十四花街「さすがに大東京である」と、格別感嘆したり、自慢したりするには当らないことだとおもふけれど。

武新野は月の入るべき峰もなし尾花が末にかゝる白雲

と詠まれたその「武蔵野」の凡そ半分にも當る廣い面積を取り入れて新しく建設された「大東京」三十五區の中、花街をもたない區は場末も場末もうんと場末である「葛飾」「杉並」の二區のみで、あとの三十三區は一區少きも一箇所、多きは三筒所、大なれ小なれ花街を有し、その総数五十四花街。そこに約一万一千の芸妓と五千を降らない娼妓及び二千八百の私娼がゐる。 カフェーとバーに押されて四苦八苦しつゝあると噂されながらも、まだヽ以て旺んなる哉と三嘆せざるを得ないのである。

矢張り『さすがに大東京だ』であらう。大大阪、大京都の各十花街。大名古屋市の十七連妓とくらべても、殆ど比較にならぬ多数の花街を抱擁してるのである。

試みにその十花街を區別に列挙して見やう。