花街情調

王子稲荷は古来関東地方正一位さまの総司といはれてるが、尾のない狐は其の管轄に属するや否や、あまり御利益も顕著でないかして、環境に恵まれてゐるにしては割合ひ発達のにぶい花街。 河床がコンクリートとなって風情は無くなったにしても、こゝの命は矢張り音無川から飛鳥山にかけて一円の風景で、桜のあけぼのに時雨のもみぢ、扇屋の奥座敷で静かに爪弾きをきくところにあらうか。 然し詳しいことは実は、知らないのである。