主なる料亭・待合

大井や大森海岸ほどに規模も大きく設備の整つたといふ待合に乏しいが料亭では「つるや」、待合では林月、満壽の家、成駒などが大きく、之に次でやまと、久の家、春本、弥生、千登世などに指を屈すべきであらう。

それに逸してならないものに「安くてうまい」沢田屋がある。 都新地を知らない者はあつても、大森の沢田屋を知らぬ者はないと言はれる程今全盛を極めつゝある家で、材料の魚類を市場に求めず、自家用の漁船で漁つた鮮魚を、安くうまく料理して食はせる家、たらふく飲んで食つて二円は使ひ切れぬといはれる大衆向きの料亭、夕刻の時間どきには沢田屋の路次には円タクの市が立つ。 組合には加入してゐないが、芸妓もはいるし、目下廓内に壮大な別館を建築中である。 竣工の上は当花街の一名物となること疑ひなし。