主なる待合

昔から今に、相変らず梶田家の全盛、つゞいて新梶、清の家、布袋家、富田屋などいふところが代表的な家であらう。

因に此里には九人の幇間が居る、が親玉は桜川三寿でこれは御承知の通りの料理通、揚羽家の徳二は新内と笛がお碍意、同じく笑蝶は平場がおもしろく、同五六は河馬のやうな顔をしてゐるがあれで却々いきな男なんださうで。 銀次とくると「仕立屋かい」などゝからかはれるが、気のさくい男で書生肌のところが客にも芸妓にも愛されると自分で言ってる訳ではない。

池の端摩詠(詠人しらず)

不忍にふる夜の雨、鐘の音、さかづきの酒かすかにふるへり。

笑福にさかづきふくみっ不岡想ふ、瀧田樗陰はよく飲める哉。

蔦子をば一目見しより池の端の夜を美くしとおもふ兒あらむ。

かゞなへば三年ぶりなる峰吉の顔ますくに大きくあるかも。

摩利支天、そゞろあるきの仇すがた池の端にも夏来たるらし。