主なる料亭

公園の常磐花壇、公園下の山下、清涼亭、池の端東仙閣、池の中の笑福亭、同朋町では花家。 その他岡鶴、住吉、三千、鳥料理のみやこ鳥、香月、鰻の伊豆栄など。 伊予紋の料理も晩年は余りたいしたものでなかつたが、無くなつて見ると矢張り淋しい気がする。

「お山」といへば公園の常磐のことで即ち西郷さんの銅像のうしろ、東京市の何分の一かは一眸の下に在り、都の夜の灯の美くしさにうつとりさせられるが、こゝは宴会が主。 地の利を占めて最も気分の好いのは、何と言つても池の中の「笑福」であらう、出来ることなら此所は待合にして置いて、寝ながらにポンポンと蓮の花の開く音をきゝたいところである。

芸妓は入らぬがうまい物ではおでんの「魚亀」、天ぷらの「天民」、そばの「蓮玉」と来ると此里の名物で、仕出しは「魚新」を第一とする。 「揚出し」も元は名物に算へられたものだが、何でも屋になつてから評判を落とし、蓮玉も表へ出て改築して以来どうも少し世評が悪いやうである。