料亭と待合

例に依つて主なる家を挙ぐれば、料亭では千とせ、やまと、とよ田、浪花家、春日、喜可久、一葉、和田安など。待合では中井、布袋家、初大阪、千松倶楽部、仙月、お峰、久本、藤村など。

右の内千とせ(通り三)と浪花家(呉服橋)は上方料理で、やまと(橋呉服橋三)にとよ田(呉服橋三)は江戸料理であるが就中やまとの主人は、元蔵多家の板前をして居た人で、蔵多家没落の後独立して料理屋を開業したのであるが、会席料理にかけては東京屈指の一軒で、座敷も百五十畳敷の大広間を有し、今日では土地一流の大料亭である。春日は贅沢料理で知られ、和田安は蒲焼屋だが普通の料理もでき、軽便なのでなかヽ繁昌してゐる。喜可久は南茅場町に在つてちよつと距離が離れてゐるが、こゝと待合の二見家は遠出にならず、日木橋と葭町と両方から芸妓がはいる。

芸妓は入らないがもみぢの座敷天ぷらは当花街の名物と云つてよく、鳥料理の末広は東京を通じて第一指に折られる家で、殊につまみに出す青豆が名物である。