主なる料亭

主なる料亭と言ても芸妓の入る家は総計九軒で、数こそ少いが流石に大物が多く、花月楼(銀座七)新喜楽(築地三)八百善(築地二)錦水(築地三)こゝ等あたりになると何れを二ーと順序はつけ難い、花月は女将の愛嬌と五分も隙のないサーヴイスでめきめき売出した家で、元は一と言つてさて後に続く家の無かつた新橋の代表的料亭、現主平岡権八郎氏が当代有数の洋書家であること、先代得甫氏夫妻が鶴見に遊園地「花月園」を経営しつゝあること等は余りに有名な事実である。 新喜楽は曾て「東京三おきん」の随一として名高かつた女傑伊藤きんの経営してゐた待合新喜楽の跡で、現在では新橋切つての全盛ぶりを見せてゐる。 八百善は江戸時代から定評のある歴史的な割烹店、震災後浅草から移転して来たもの。 錦水また東京に於ける今日の日本割烹では、一二に指を屈せられる家である。 料理は落ちるが松本楼(尾張町二)も新橋では古い家で、且つ此の花街には矢張り無くてならない会席料理であらう。 薄茶料理の富貴亭(三十間堀二)博多水たきの筑紫(築地三)京都料理の池田(築地三)ふぐ料理の佐久間(銀座八)など何れもそれで特色を発揮してゐる。